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ぬるい氷

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沈む太陽と浮かぶ月

気持ちが塞いでいるときにはどうしても下を向いて歩いてしまうものだ
不思議なことにうつむいて歩いていると余計に気が滅入ってくる
一度入り込んだら下るばかりの螺旋の迷路
その先に出口はない

「辛くても前を向いて歩くのよ」

そう言うからにはきっとそんな経験をしたことがあるのだろう
誰が言ったかは知らないけれど可能ならその人に尋ねたい
「あなたはその時一体どんな顔をしていたのか」と

僕は自分の今の顔が一体他人の目にどのように映るのか分からないでいる

幸運なことにと言うべきか
その時間に川沿いを歩いている人は僕以外にはいなかった
空に浮かんでいる月
不敵に微笑んだ口元のようだ

整備されているわけでもなく
別段風情があるわけでもない
ただ流れているというだけの川
どこから流れてきてどこへ流れ着くのか
地元でも果たしてどれだけの人が知っていただろう

川には顔が沈んでいたが
それすらほとんどの人が気にしていないようだった

沈んだ顔はやがて浮かんでくる
月の明るい晩には明かりに照らされた顔が水面を漂っているのが分かった
明るい夜とは言えないその晩も一つの顔を見つけることができた
暗く沈んでいた顔は水面に上がってくる頃にはどれも良い表情をたたえていた
それは人それぞれだったが
きっとその人物の最も良い表情なのだろう

僕はためらいながら浮いている顔をそっと手ですくった
クラゲのように水面を漂うそれに触れても
手には感覚が伝わらなかった
まるで映像のようだ

水から上げると顔はすぐに乾き消えてしまった
持ち主の元へ帰ったのだと思った

僕はその瞬間何とも言えない気持ちになった
なぜなら自分も同じ表情をしているに違いなかったからだ

明け方になると僕は家に帰り眠りについた
日中は家で過ごすことが多かった
できるだけ人と顔を合わせたくなかったので
外に出るのにも日が暮れてからと決めていた
それでも外に出れば人と顔を合わせることもあったが
皆一様にお互いに顔を見ないよう下を向いて歩いていた
人の顔は時として自分の顔を映し出す鏡だ
土地の人間には顔がない
きっと川のどこかに沈んでいるのだろう
けれども気づかないふりをしている
そう誰もが認めたくないのだ

僕は夜な夜な外に出かけては
浮かんでいる顔をすくった
多い時にはその数は十を越えた
だが日に日に僕の欲求は高まり
それだけでは済まなくなってきた
つまり他人の顔を掬うのではなく自分の顔を救いたいという気持ちが強くなっていったのだった
いつかは浮かんだ自分の顔を見つけることができるのかもしれないが
それがいつになるのかは分からない

僕は浮いている顔に飽きたらず
水底に沈んでいる顔にまで手を伸ばした
けれども沈んだ顔を無理に水面まで引き上げても表情は変わらなかった
沈んだ顔は浮かない顔ではない
沈んだ顔はいずれ浮き上がる
それを待っている顔なのだ
月も太陽も沈むが時を経て空へ浮かび上がる

僕が無理やりに引き上げた顔はそのまま乾き消えてしまった
何か取り返しのつかないことをしてしまったのではないか

こんな時どんな顔をすればよいのだろうか
僕はいつから顔がないのだろうか
いや表情を忘れてしまったのだろうか

水面に映った自分の顔を確かめてみると
あるべき僕の口の位置にちょうど三日月が重なっていた
comments(0)|trackback(0)|書き物|2015-08-15_00:06|page top

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