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ぬるい氷

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まかない

僕が厨房で働き始めてほぼ1年になる
最初は皿洗いくらいしか手伝えることが無かったが
今では簡単な下ごしらえをしたりまかない料理を作ることもある

僕の他に厨房で働いているのはおじさんが一人
最初の頃おじさんは自分のことをシェフと呼べと言っていたが
僕がおじさんと呼び続けていたら何も言わなくなった

おじさんはもう歳だから何かあったら困るというので人を探していた
僕が雇われたのは「手癖がついているよりも何も知らない方が使いやすい」という理由だそうだ
僕を雇った後で「知らなすぎるのも困るな」とおじさんは言っていたけれど最近は言わない

僕が初めてまかない料理を作った時のことは今でも覚えている
僕が生まれて初めて作った料理がそれだからだ
余った食材でスープを作ろうと思って鍋で煮込んでいた
味が濃いなと思って水を足したら今度は薄くなってしまった
だからまた味を濃くしたら結局鍋いっぱいにスープができてしまった
自分でも美味しいとは思わなかったがおじさんは何杯もおかわりをしてくれた
翌日もその翌日もまかないはそのスープだった

おじさんの作る料理を間近で見て僕はいくつか料理を覚えていった
それを見よう見まねでまかないに出した
味は到底おじさんのにはかなわなかったけれどおじさんは何も言わずに食べてくれた

ある日の昼過ぎ
ランチタイムの最後のお客さんがいなくなり
まかないを作る時間になった
何を作ろうか考えながら棚を調べていると
まだ封を開けていないまっさらのパスタの袋の横に
あと2人分くらいの乾燥パスタが残っているのを見つけた
使ってもいいかどうかを聞くと
「ああ全部使ってくれ」
とおじさんは言った

これ全部ですかと僕がもう一度問いかけると
「ああ全部だ」
とおじさんは言った

やっぱり二人分では少ないから全部使った方がいいのかと
僕は新しい袋の口を切り
それも足して全部で1キロくらいのパスタを茹でることにした

全部同じ味では飽きるだろうと
僕は2種類のソースを作ることにした
一つはトマトソース
もう一つは生バジルのソース
どちらも余っていたものを利用した

トマトとバジルの香りが厨房に立ちこめた
客席で煙草を吸ってくつろぎながらおじさんは
「いい香りだ」と言った

一人で500グラムを超えるパスタを入れたパンを振るのは骨が折れた
絶対に麺を茹ですぎないようにというのを心がけた

盛りつけも苦労したが何とか二つの皿からこぼれないように盛ることができた
テーブルに持っていくとおじさんは何も言わずに食べ始めた
そして僕が厨房に戻ってもう一皿を持ってきた時に
おじさんはブッと口からパスタを吐き出した

やっぱり作りすぎていたんだ
全部って言うから僕は全部のパスタを使ってしまったけれど
二人でこの量はやっぱり多すぎる
僕がちゃんと聞けば良かったんだ
「怒られる」と思ったけれど
おじさんは何も言わず食べ続けた
僕も自分の取り皿に分けながら食べた

二人で黙々と食べ続けた
食べても食べても皿のパスタは減らなかった
おじさんよりも早く僕の手が止まった

おじさんが言った
「満腹というのは腹が決めるんじゃない
脳が決めるんだ」

それからまた二人で食べ続けた
おじさんの食べる速度は相変わらず変わらない
僕の手は休みがちだ

「腹がいっぱいだと思ってもそれは脳が勝手に思っていることだ
本当の限界がやって来た時には体はサインを寄越す
それまでは食べろ」

そう言われて僕は食べ続けた
おじさんも食べ続けた

ようやっと二人で半分くらいを食べた頃
プゥという音がした
最初は何の音か分からなかったけれど
2回目でそれはおじさんのおならだと分かった
それはおじさんからは想像できないようなとてもかわいい音だった

おじさんが手を止めて言った
「限界だ」

僕は思わず吹き出した
それから僕一人で少しずつ食べ続けたけれど
僕のおならは出ないままだった
comments(0)|trackback(0)|書き物|2013-02-12_21:28|page top

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