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ぬるい氷

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海のそばに森はない

朝目覚めると左足がしびれていることがある
そんな朝は布団の中でふくらはぎからももまでをゆっくりマッサージする
血液が循環していくのが分かる
楽になる

原因は何だろう
筋肉痛でもないし
脊椎の辺りを痛めたのだろうか
いや心当たりは無い

一月に1〜2回程度だったのが
半月に
そして毎日のことになるのにそう時間は掛からなかった

しびれを取るために30分ほど起きる時間が早くなった
それが習慣になった

僕がさらなる異変に気づいたのはそれからまた半月ほど経ってからのことだった
起きると左足の指が何だか変なのだ
親指が人差し指ではない指に触れ
人差し指は親指ではない指に触れている
では親指と人差し指の間にある指は一体何指なのか?

布団の中で手で触れてみると
それは皮膚の感触と異なっていた

恐る恐る布団をめくると
指の間に茶色のこぶのようなものができていた
一晩でこうなってしまったのか
それとも気づかなかったのか
それは自分の意思では動かすことができず
すぐに病院に行くべきだとは思ったが
とんでもないことを宣告されるのではないかという恐怖で行けなかった
その日足のしびれはどうしても取れなかった

翌朝
左足の感覚が完全になかった
布団をはいで足の指を見ると
昨日のこぶのようなものから芽が出ていた

そんな状態でも僕は仕事に向かった
右足だけも自転車には乗れるのだ

病院には行かなかった
多分西洋医学ではどうにもならないだろう
足の裏に出来た目はうおの目というけれど
足の指の間から生えた芽は何ていうんだろう
そんなことはどうでもいいんだけれど

僕は間もなく松葉杖をつくことになった
しびれは股から右足にまで広がっていた
足からは血の気が失せて全体的に茶色っぽい
靴下ではもう隠せない
膝の裏やくるぶしからも芽が生えていた
僕はやがて樹になるのだろう
その日一身上の都合ということで退職した

樹になるとして
僕が一番気になるのは意識や感覚が残るのかということだ
触覚は無くなるだろう
きっと他の感覚も同じだ
でも意識はどうなんだろうか
人間は考える葦だと言うのは例えだ
植物には意識があるのかないのか
調べてみてもよく分からなかった
あったとしてもそれを人間のとは比べられない

僕は海を目指した
海を見ていると何故海と森が隣あっていないのかと思う
きっと塩を含んだ水じゃ根がだめになるんだろう
でも元人間の僕なら何とかなるんじゃないだろうか
血液にだって塩分は含まれている
もしまだ僕の体に血液が流れていると仮定してだけれど

両足を砂に埋めると気持ちよかった
急速に根が伸びていくのが分かった
そしてそこから吸収した水分が僕の体を巡る
何だやっぱりやれるじゃないか

海の青と森の緑
かつて僕の足だった幹を波が洗う
海の鳥が樹上でさえずり
森の鳥が海で泳ぐ
僕から始まる新しい世界

西に面した海を選んで良かった
日の出より日が沈む海の方が好きだから

やがて動かなくなるこの両手は空に向かって伸ばそう

手紙を残しておけば良かった
ありがとうは言えずじまいだったな
僕が急にいなくなると母はきっと心配するだろう
母は気づいてくれるだろうか
幼い頃に母に手を繫がれてよく来たこの砂浜で
青々と茂った森の中にたたずむ僕の姿に

足が疲れたといってあの頃はよくおんぶしてもらった
今度母と会う時は僕が母の体を支えてあげたい
日差しから守ってあげたい
その時になら言えるだろうか





「私は海のそばに森を見たことがない
けれど流木が流れ着いていることがある
それは色褪せ
旅をしてきたことを伝えている
その一本はもしかしたら
こんな運命を辿ったものなのかもしれない」
comments(0)|trackback(0)|書き物|2013-01-28_21:17|page top

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