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ぬるい氷

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お弁当

東の山から登っていくる太陽を見て
誰もが今日の運動会の開催は揺るぎないものだと思った

走るのが得意な子は晴れの舞台に意気揚々と早起きしただろうし
走るのが苦手な子はためいきをつきながらもやっぱりどこかでわくわくした気持ちを持っていただろう

学校に賑やかな子どもたちの声が響き始める
時間を経てそれは歓声に代わり
昼にはどの子もそれなりに満足した表情を浮かべていた
一等をとった子
昼からの演目に全力を注ごうとする子
完全に応援に徹する子
運動会にかける思いはそれぞれだが
そのそれぞれが集まって運動会は熱気を帯びる
もちろん気温も含めて

一人の子がお弁当の包みを開き
歓声が上がった

お弁当は二段重ねで
豪華なおかずが詰まっている

それを見て誰かが
「まるで地球みたい」と言った

色とりどりのおかずは
確かに大地や森や海や空を彷彿とさせた
「いいなぁ」

別の子が
「じゃあ俺のは砂漠だ」
と笑いながら言った

その子のお弁当は茶色いおかずがほとんどだった
唐揚げにハンバーグにしっかり焼いた卵焼き
砂漠のお弁当の周りに人だかりができ
「いいなぁ」という声がまた聞こえた

「砂漠でもいいやん 僕のは何もない」
また別の子が言ったが
その子のお弁当はご飯の上に海苔が敷かれているだけだった

「本当だ」と子どもたちは口々に言ったが
そのうちの一人が「ちょっといい?」と言って箸を取った
海苔弁当の子はためらいがちに「うん」と頷いた

海苔に大小いくつかの穴が開けられる
「こうするとまるで星空みたいじゃない?」
海苔の穴から見えるのは下の白いご飯

「本当だ星空みたい」
「星空弁当だ」

「いいなぁ」と子どもたちはまた口々に言った

そんな子どもたちの輪に入らず
教室の隅っこで一人でお弁当を広げている子がいた

それに気づいた子が声をかけた
「君のはどんなお弁当?」

隅っこで一人でいた子は
「やめろ 見るな」
と大きな声で言った

その大きな声でみんなびっくりして
すぐにその子の周りに輪が移動した

その内の一人が面白がって強引にお弁当を奪い取って
みんなの前に広げた

お弁当は真っ白なご飯の上にごま塩が振りかけられているだけだった

「お母さんは働いていて忙しいから自分で作ったんだ」

お弁当を取り上げられた子は泣きそうになって言った
笑っている子は一人もいなかった
しばらくの沈黙の後で
一人の女の子が言った

「雪みたい」

別の子が言った

「ほんとだ 真っ白なご飯て本当に雪みたいに見えるね」

また別の子が言った

「このごまが動物の足あとみたいじゃない?」

子どもたちはほんとだと口々に言った

「きっとウサギの足跡だよ
僕テレビで見たことがある」

「自分でご飯炊いたんでしょ?すごいね」

真っ白な弁当を褒められるたびに
弁当を取り上げられたその子は少しずつ明るさを取り戻していった

弁当を取り上げた子がバツが悪そうに自分の弁当を持ってきて
「これやるよ」と唐揚げを一つ差し出した
「雪を汚してしまうけど」
そう言われて雪弁当の子はとまどった

「代わりにそのごまを3粒くれよ」

雪弁当の子はうなずいた

唐揚げをあげた子は自分のご飯の上に
ごまを3つ並べると
「こうすると顔みたいに見えない?」
と言った

それはその子ができる最大限の償いで
周りの子はくすくすと笑った

それからおかずの交換がいたるところで始まった

その日その教室の中で一等賞はなく
代わりにどの子の白いご飯の上にも笑顔があった
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comments(0)|trackback(0)|書き物|2012-06-29_20:03|page top
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